July 07, 2019

七夕の真実〜夏の大三角関係物語〜(再掲)



天界に、クグイという可愛い女がおりました。

クグイの夫は牽牛(ケンギュウ)という牛飼いで、二人は仲睦まじく暮らしておりました。

しかしクグイには心配なことがひとつありました。
働き者で心やさしい夫ですが、彼は年に一度、7月7日になるとどこかへ出掛けて行き、日付が変わる頃になってようやく帰って来るのです。
どこへ行っていたのか尋ねても答えてくれず、クグイはその年の7月7日、そそくさと出掛ける彼の後をこっそりとつけて行きました。

彼はなんと女と逢っていました。
それも、天帝の娘・織姫ではありませんか。
更には調査の結果、牽牛と織姫は婚姻関係にあることが分かりました。

クグイは彼を問い詰めました。

「わたし見たのよ。あなた、7月7日に天帝の娘と逢っていたでしょ。しかもあなたたち“夫婦”だそうじゃない!どういうこと?!」

「ちがうんだよクグイ、これにはワケがあるんだ」

「どんなワケよ」

「以前、僕は天帝に命じられ、織姫の婿となったんだ。けれども僕は心から彼女を愛していたワケではないから、やはり離縁したいと申し出たんだ。怒った天帝は、僕が彼女の目に触れぬよう天の川の反対側に飛ばしたんだが、織姫がどうしても僕を忘れられない、せめて年に一度でいいから逢いたいと泣き続け、哀れに思った天帝が、年に一度7月7日に彼女に逢いに来るようにと僕に命じたんだ。きみに出逢ったのはその後のことなんだ。天帝の命令にそむくことは決して出来ない……けれど僕が愛しているのは、クグイ、きみだけなんだ」

クグイはしばらく黙ったのち、意を決したように顔を上げました。

「分かったわ。天帝のご命令ならば仕方がない。けれど私は、あなたが他の女性と一日を過ごすなんて悲しくてたまらない。何か誠意を見せてちょうだい」

「……よし。彼女に逢いに行くその日は、きみの欲しいものをなんでも買ってあげるよ」

「本当になんでも?」

「ああ、なんでもさ」

「うれしい!」

そうして、次の年の7月7日が訪れました。

クグイは牽牛に、超高級星屑ジュエリーが欲しいと言いました。

「分かったよ。なんでも買ってあげると約束したからね」

そう言って家を出た牽牛ですが、実際はそんなお金などどこにもありません。

クグイとも織姫とも別れたくない牽牛は、一年ぶりに逢った織姫にベッドの上で腕枕をしながら、おもむろに話を始めました。

「今日、ここに来る途中で幼い女の子に会ったんだ。女の子はとても貧しい暮らしをしているようで、着ている服もボロボロだったが、『いつかママに超高級星屑ジュエリーを買ってあげるの』と言って、その小さな瞳を輝かせたんだ。きみと僕は夫婦になり、愛し合いすぎて互いの仕事をおろそかにしてしまった。怒った天帝に天の川を隔てて引き離され、こうして年に一度しか逢えなくなってしまったが、例え年に一度でも美しいきみを抱きしめて夢のような時間を過ごせる僕はあの娘の何倍も幸せだ。可哀想なあの娘にも夢を見させてやりたいが、彼女が超高級星屑ジュエリーを手にすることは生涯ないのだろうな……」

「まぁ、あなたはなんてやさしい人なの。わかったわ、わたしお父様に頼んで、そのジュエリーをもらって来る」

まさに、牽牛の計画通りでした。

「ああ、きみこそなんてやさしい女性なのだろう。この溢れんばかりの幸福を独り占めしている僕は、まるで罪びとのようさ」

「そうだわ!この7月7日という日の幸福を私たちで独り占めにしないで、世界中の人たちの願い事を叶えてあげましょうよ!」

「ああ、まぁ、そうだね……」

こうして織姫と牽牛は、7月7日になると、みんなの願いを叶えてくれるのでした。

ただ、牽牛がそうそう乗り気ではなかったので、願いを叶えてもらえない人も出てしまうのでした。

おしまい。


※クグイ=鵠=白鳥の古名


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■7月21日(日)
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会場:江古田マーキー
開場:13:30 開演:14:00
チケットのご予約・お問い合わせはせきぐちゆき公式サイト「LIVE」をご覧下さい

■8月10日(土)
児童養護施設支援イベント
「Fightingビアガーデン2019」せきぐちゆきライブ

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せきぐちゆき公式サイト
せきぐちゆき アルバム『Last Goodnight』ダイジェスト

bukurox at 11:53│Comments(8)clip!

この記事へのコメント

1. Posted by ミスターT   July 07, 2019 18:27
よっ牽牛!2年前から全く成長しとらんな貴兄は…おいらと同じか 笑
我が家の凌霄花も呆れた妖しい笑みを魅せておるよ  (・∀・)
2. Posted by こめっと   July 07, 2019 21:15
この物語を拝見して思い出したことが、このコメント欄に鵲と言う方の書き込みがありました。自分読めなくて調べました。そうしたら、この物語に関係が・・・。
「七夕の夜、牽牛・織女の二星が逢うとき鵲が翼を並べて天の川に渡す。と言う想像上の橋。(鵲の橋)」だそうな。そう言えば、ゆきさんの曲でKAMAKURAYAMAの中で「ヴィオラのあの子はあなたを見ていた」ってこの下り。ヴィオラって何ですか?未だに謎です。やはり三角関係?そろそろ種明かししてください。(笑)
3. Posted by とみとみ   July 11, 2019 15:39
ボサノバの神様  ジョアン・ジルベルトさんが亡くなられたそうです  ブラジルの歌手ギタリスト サンバとジャズを融合させたボサノバ音楽  「イパネマの娘」 七夕に願いを込めて素適な歌ありがとうと 皆さんが引き継いで歌って頂きたいです ゆきさん 宜しく聴きたいで〜す
4. Posted by 博志   July 14, 2019 14:18
7月7日という日はロマンティックな日です。
5. Posted by せきぐちゆきです。   July 15, 2019 08:07
ミスターTさん>
まさにこの時期、そこかしこで絡みつく凌霄花を目にするとなぜかとソワソワ致します(笑)。
6. Posted by せきぐちゆきです。   July 15, 2019 08:14
こめっとさん>
空や星の物語は面白いですね。子ども科学館のプラネタリウムが見たい
7. Posted by せきぐちゆきです。   July 15, 2019 08:17
とみとみさん>
イパネマの娘、メロディはもちろん、詞が本当に美しいですよね。
8. Posted by せきぐちゆきです。   July 15, 2019 08:20
博志さん>
七夕飾りを作った遠く懐かしい日を想います。

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